力技で開けられる鍵は鍵の意味を持たない

昔小さな雑貨屋さんでバイトをしていたことがある。そのお店はこの辺で主要なターミナル駅の地下街にあって、2畳ほどのスペースに、オーナーが個人輸入した商品や、オーナやその友人たちによる作品なんかが展示されていた。その店はドアではなくシャッターで開閉するのだが、このシャッターが結構年代物で、開け閉めするときにものすごい金属音を放つのであった。私はいつも閉店の方を任されるので、常にシャッターの合鍵を預かっていたのだが、先日オーナーが出張ということで、一日店番をすることになったのである。

開店5分前に店に着いた私は、シャッターの鍵を取り出そうとしてカバンの中をまさぐったのだが、そのとき初めて鍵がないことに気づいた。そういえばカバンを替えたときに、シャッターの鍵が入ったポーチを入れるのを忘れていた気がする…。血の気が引く、という言葉通り、全身の血がなくなっていくような感覚になった。というのも、地下街ではあらかじめ届け出がない限り、開店時にお店が開けられないとペナルティを課されることになっているからだ。私は出張先の店長に電話して、事情を説明した。てっきり大目玉を食らうと思っていたのだが、予想に反してあっけらかんとした様子で店長が言った。「大丈夫、私もよく鍵忘れるけど、力技でなんとかなるから」「え?」「いいからおもいっきり上にあげてみな」「え、えぇー!?」ためらう気持ちもあったけれど、もう開店時間はすぐ迫っている。背に腹は代えられない。えい、ままよと私はシャッターに手をかけて思い切り力を込めた。すると激しい金属音とともにシャッターがものすごい勢いで天井に向かって上がっていくではないか。「お、オーナー、あ、開きましたァ…」「でしょ?」いや、でしょ?じゃないでしょ。力技で開けられる鍵なんて、鍵の意味ないじゃないと思うんですけど…。なんだかなあと思いつつ、その日の店番を終えたのだった。